カルチャースタディーズ研究所インタビュー 第2回
——
「Roundabout」「OUTBOUND」店主小林和人さんに聞く
有用性という意味の圧力から人を遠ざけたい
インタビューと文|カルチャースタディーズ研究所 三浦展
吉祥寺OUTBOUNDにて|2026年4月6日収録|2026年7月7日公開|4/4ページ
「意味圧」から遠ざかる
三浦|小林さんは1975年生まれですが同世代のことをどう思いますか。私が好きな「52間の縁側」を設計した山﨑健太郎さんは76年生まれなんですが、とてもプリミティブなデザインで、小林さんの世界観にも通ずる感じがします。
小林|モダニズムもポストモダンも通過したあとの「実感回帰世代」という気がします。モダニストほどの真面目さもなければ、ポストモダンほどの諧謔ぶりもないし。
三浦|先ほど言われた「切実さ」というものが共通している気がしますが。「52間の縁側」は、通常の画一的な老人施設ではできない、本当はもっとこう生きたいという老人の切実な思いに応えようとしていると思うし。やはり76年生まれの仲俊治さんは、シェアハウスなどによって従来の核家族世帯ではない暮らし方を求める切実な声に応えてきているように思います。
小林|なるほど。自分がちゃんと扱われたいけど、管理されたくはないという気持ちにどう応えるかという問題。
三浦|そうそう。ちゃんと扱うということは、扱わないことだよという矛盾。朝食はご飯と漬物だけでいいからと言っても、毎食栄養たっぷりな食事を出されてしまう。ちゃんとご飯が出されることにも人間は不満を感じうる。自分の自由がないからです。栄養満点という意味ではちゃんと扱われないことが、自由という意味ではちゃんと扱われることである。これは究極の贅沢なんです。贅沢を言わないことが贅沢である。
小林|その人のそのときの気分に合わせてくれない。つまり管理ってことですよね。
三浦|そういう現代社会の矛盾を考えることができるのが小林さんの世代かなと思う。
小林|僕の世代というか僕個人の価値観かもしれないけれど、柳宗悦も坂田和實さん★4も「美」を最大の価値基準にしていたのですが、その敬愛する二方と違うのは、僕は「美」という言葉を極力使わないようにしているということです。もちろん「機能美」といった言葉は使うけれど、物を見てこれは美しい、美しくないという判断はあまりしない。
じゃあ、僕が物を選ぶ基準が何かというと、その物がいかに意味から自分を遠ざけてくれるかということです。
今は「意味圧」の社会だと思う。物にも人にもどれだけ社会に有用かを常に問う。いくらかかりますかとか、どれだけ時間がかかりますかとか、それって意味あるんですかとかね。情緒のない言葉が飛び交いすぎている。
そういう時代において、たとえば器を眺めることで、人は意味の外へ逃れることができる。そのことを僕は物の「作用」と呼んで、毎年「OUTBOUND」で「作用」をテーマにした展示をしているのです。「作用」は今後極めて重要になってくるだろうと思っている。
三浦|なるほど。僕が中国人に講演するとき必ず「instrumental(道具的)」と「consummatory(自己充足的)」という話をするのですが、とても彼らに評判が良い。今小林さんが言われたことと通じていて、意味、有用性というだけではない価値が中国でも求められ始めている。たとえば器を道具として使うのではなく、それを眺めて、言葉にならない情緒的満足感の中にしみじみと浸りたい、という欲求が広がっていますね。今回小林さんにお話を伺ったのも、そうした中国の状況を踏まえていたので、とてもぴったりのお話を伺えました。ありがとうございました。
★4坂田和實(さかた・かずみ、1945−2022)は、日本の骨董商、美術評論家、骨董収集鑑定家、随筆家。古美術店「古道具坂田」店主だった。
