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カルチャースタディーズ研究所は
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三浦 展が主宰する、
消費・文化・都市研究のための
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カルチャースタディーズ 30代インタビュー 第2回

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建築家 らいおん建築事務所 主宰 嶋田洋平さん

人口減少社会に衝撃を受ける

嶋田:当時、家賃が少し上がっていた時期みたいで。というような感じで、リノベーションのプロジェクトをいくつか経験し、最後に担当したのが、鹿児島のマルヤガーデンズです。それを手伝いしていて、それとラップするかたちで、らいおん建築事務所を立ち上げて。そこで、山崎亮さんとかと初めてお会いして、衝撃を受けまして。

三浦:え、どんな?

>マルヤガーデンズ/スタジオL ウェブサイトより

嶋田:僕は、世の中がどんなふうになっていくかということに、あまりに無頓着でした。みかんぐみに勤めていた時は、目の前に降ってくる仕事にどう答えるかということに精一杯で、これからの社会がどんなふうに向かっていくとか、あんまり落ち着いて考えたことがなかったんです。いざ独立しようかなって思うようになって、いったい僕はどういうふうにやっていくべきなんだろうということを少し考えるようになった頃に、山崎さんから、人口が減っていくこととか、そうは言いつつも、設計事務所で建築をやっている人がこれだけいて、社会資本整備審議会の答申で、国土交通白書には2025年以降、社会資本投資がゼロになってしまうことが明確に書いてあるとか、そのような情報が鮮明にガンガン入ってきました。僕らが学んだ、20世紀型の右肩あがりに成長し、それに合わせてものがつくられていくとか、そのような社会なら普通に考えられた、建築の設計に携わる者であれば、設計事務所に3年とか4年勤めて、一級建築士をとって独立して、家族とか親戚の家をつくってデビューして、雑誌に載ってという、ある種の双六みたいなロールプレイモデルは、もはや存在しないではないか。と思ってしまいました。
 これからは、これまでのようには新築の住宅がどんどん建つような事はなくなるだろうし、僕らが大学生のときに思い描いていた建築活動というか、そういうこととは全然違うことになるんだろうな。とイメージができたのは、その仕事に関わっている時でしたね。小嶋先生が言ってたのって、これか!と。

 ビルを新しく建てて再開発しているわけではないですが、リノベーションして商業施設の開発をしているわけだから、そこにテナントがつかなきゃいけない。三越が撤退した建物で、使う人のいなくなってしまった建物で、再度使う人が現れなければならない。でも、これまでのやり方では、全然通用しないんだ。ということを肌で感じられたと思います。

三浦:山崎さんとのやりとりで?

嶋田:マルヤガーデンズのプロジェクトを通じた、様々な人々との出会いでですね。山崎さんの存在は大きかったですけれど。

三浦:逆にいえば、テナントで埋めて、それで客が来るなら、マルヤガーデンズみたいにする必要ないもんね(笑)。

嶋田:ないです。お金を払って借りてもらえてるならいいんですけど、もう一回、商業施設をどうしなきゃいけないかというのを考えていったときに、今の社会の状況とかが、なんとなく見えたというか。そういうのが大きかったです。

三浦:なるほど。それまでは、人口が減っていくんだ、ということは知らずにいた?

嶋田:小学校のときに、世界の人口は増え続けて食糧難になりますっていうような、そのくらいのどうでもいいようなおぼろげな知識できていたから。少子化になるのも知ってるし、高齢化社会になるのも知ってるけど、生産年齢人口がすでに減っているとか、人口が減っていくというのを鮮明に、あ、そうなんだと思ったのは、ここ3年くらい。

三浦:そうですか(笑)。

嶋田:目の前の仕事を頑張りすぎて、社会へのまなざしを失ってました(笑)。

三浦:じゃあ、それで、自分の建築観も変わったんですね。

嶋田:大きく変わりましたね。

新築、やめたほうがいいんじゃないですか

三浦:そういうなかで、らいおん建築事務所を始めたっていうのは、どんな建築をしたいとか、どんな設計会社でありたいとか、どういうコンセプトが?

嶋田:僕は、明確にこうありたい、というのはあまりないんです。答えになっているかわかりませんが、らいおん建築事務所をつくったときに、中小企業の社長が集まるセミナーに呼ばれたんですよ。

三浦:いきなり?

嶋田:いきなり(笑)。ある縁で生命保険会社が主催する経営者向けの無料セミナーに行ったら、タイのホンダの社長だった人が講演をしていまして、「経営とは、環境適応業である」と言っていたんです。よくよく考えたら当たり前なんですけれど。建築設計をやっていると、住宅をたくさん建てたい、とか、公共施設の設計をしたいとか、思います。社会全体で考えれば新しい家なんかもう建たなくってもいいのに。だけどそういうのを自分の仕事だと考えていると、社会の変化がおこって環境が変わってしまうと、仕事がないって言ってしまう。もう世の中の人たちが求めているものが全然違っていて、新築の建て売りを買っても、あんまり幸せじゃないなとか、一部の人はわかってきている。僕は、新しい建築、しばらく建てちゃいけないかな、と思っているんです。

三浦:今、現在? そう思っているの?

嶋田:しばらくは。特に新築住宅とかは、たぶん建てない方がいいな思っています。これだけの空き家が問題になっている時代は、あるものをうまく使ったほうが、社会全体としては豊かになるんじゃないかと思います。貧乏性な僕は、そのお金は、別のものに使ったほうがいいんじゃないかなと思っていまして、最近、新築を建てたいというお客さんが来ても「本当ですか?」って訊ねるようにしています。

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