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カルチャースタディーズ研究所は
社会デザイン研究者の
三浦 展が主宰する、
消費・文化・都市研究のための
シンクタンクです。

カルチャースタディーズ 30代インタビュー 第2回

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建築家 らいおん建築事務所 主宰 嶋田洋平さん

三浦:ほう。

嶋田:それがいわくつきの物件で、違法状態なんですね。もともと、裕福なお医者さんが建てられた住宅で、躯体は相当しっかりしているんですが、何回か増築していて、建蔽率はオーバーしているし、容積率もオーバーしている、挙げ句、道路と隣の民地に建物が越境しているんです(笑)。越境している側の隣の家は、もとのオーナーさんの所有なので、文句は言われないんですけが、そういう状態のものは、ローンがつかないんです。つまり、誰も買えないんです。「今まで数々の人が、この物件を欲しいと言って、銀行に審査を依頼したけれど、誰一人ローンが通っていないので、たぶん無理ですねって言われたんです」って言うから、「いや、そんなことないよ。あなたのお勤めの会社の安定と信用力ならば、この家が違法状態じゃなくなれば、銀行、お金貸してくれると思うよ」と言って。減築して、建蔽率も容積率もきちんと収め、越境部分も解体し、お隣にも迷惑かけないようにする。そうすれば、仮にあなたがローンが払えなくなって、差し押さえされても、銀行が転売できるでしょ。って言って、図面持って説明しておいでって言ったら、「ローン、通りました!」って。

三浦:へぇ。通るんだね(笑)。

嶋田:通るじゃん、って(笑)。それでリノベーションして。

三浦:減築リノベ(笑)。

嶋田:減築って言葉としてはあるんですけど、やった人はあまりいなくて。要は、建物と土地が今の状態を生かそうという前提で値付けされていないんですよ。まず、その建物を撤去しなければいけないように思っていてその費用やら手数料を差し引かれて値段が付いている。だから成功した場合のコストメリットがものすごく大きいんですね。

三浦:小倉の商店街のプロジェクトをやり出しのたは、いつからですか?

嶋田:2009年、マルヤガーデンズをやっている最中に、現オーナー梯輝元さんのお父さまがまだ生きていらっしゃったころから、テナントが全部撤退することがわかっていて、どうしようっていうのを、ずっとうちの父に相談していたんです。まだ僕が、建物は建てないほうがいいって結論に達する前です。耐震診断をやって、耐震改修をやって、ダメだったら建て替えてとか、お金のかかる話をずっと先代にしていたんですよ。今考えたら、悪いことをしたなぁと思っているんですけれど。そうこうしているうちに、先代が亡くなられたりして、あの仕事はもうなくなったなと思っていたんですけれど、四十九日を過ぎたあたりに梯さんに呼び出されまして。今、メルカート三番街という区画になっている昭和初期に建てられた木造の古い部分を、まずリノベーションしたいんだという話になって、じゃ、ぜひそれをやりましょうということで。

三浦:それはオーナーさんから来たの?

嶋田:リノベーションがいいんじゃないか、って思われていたみたいで。

三浦:そういう知識、というかはあったんだ。

嶋田:梯さんは、「小倉家守(やもり)構想」という、アフタヌーンソサエティの代表の清水義次さんが座長をつとめていらっしゃった、まちづくりの勉強会を受講していて、これから先の商店街をどうしていくかを考えた時、これまでみたいな再開発や商業再生のようなやり方では絶対にうまく行かない、というのは、なんとなくわかっていたようです。  僕はそういうこととは別に、横浜でみかんぐみ時代に古い歴史的建造物で、アーティストとかクリエイターが50組くらい入っているクリエイティブ拠点に入居していてそこに事務所があり、そういう場所の楽しさやまちへのインパクトを目の当たりにしていたので、なんでこういうのを商店街につくらないのかなと思っていました。もっと小さくてもいいからこういうのやればいいと信じていて、提案したら、面白いからやりましょうということで、始まったんですよね。  商店街を仕事場にする若い人たちがいっぱいいたら、いいんじゃないかなって。これまで通りの物販とか飲食ではもたなくなっている町なわけですから、そうじゃない人たちがうまく入ってこられるような仕組みをつくれば、商店街は便利だし、働きたい人もいっぱいいるんじゃないかなと、なんとなく、非常に庶民的な感覚で思っていたというか。  それで、プロジェクトをスタートしました。リノベーションプロジェクトをするときに、オーナーさんが投資をするわけですので、テナントが入らなきゃ、新築再開発して失敗しているのとなんら変わらないので、できるだけ最初に入居者というか、参加してくれるような人たちを声かけて集めて、こんな感じの場所をつくるので、できたときには入居してくださいっていう仮契約みたいな感じで結んで。

三浦:そういうコーディネートまでやるの?

嶋田:やったんですよ。らいおん建築事務所で。当時やっていたときは、入居者集めは地元の建築家の田村晟一郎さんに協力してもらいながら。

三浦:大変だね、人口減少時代は(笑)。

嶋田:大変ですよ。でもこれは、東京R不動産の馬場さんに教えてもらった方法で、最初に入居者集めたらいいよ、と。仮契約書を10枚もって、銀行に行けば、地方の銀行もリノベーション投資に融資してくれる、っていうのを、教えてくれたんですよ。

三浦:なるほど。そうか、そうか。

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