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カルチャースタディーズ研究所は
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三浦 展が主宰する、
消費・文化・都市研究のための
シンクタンクです。

カルチャースタディーズ 30代インタビュー 第3回

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文芸評論家 浜崎洋介さん
【略歴】文芸批評家/専攻は日本近代文学、文芸批評、比較文学。日本大学芸術学部卒業。
東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士課程修了・博士(学術)。
現在、東京工業大学・日本大学芸術学部非常勤講師

三浦:うん。あまりに多すぎて、そうなると、俺はこれがいい、あれがいいということ自体を、みんなが喜びと感じられなくなっている。だから、僕は昨日、みんなもうセブン=イレブンのコーヒーでよくなっているんじゃないですかって言ったの。僕もセブン=イレブンのせんべいとか、ビスケットとかしか買わなくなっているんですよ。いろいろ見ても、どれがどれだかわからないし、これを選んで好みじゃなかったら嫌だから、それなら最大公約数で絶対文句を言わせない味にしてあるセブン=イレブンのせんべいで十分だろうと。
 それがいやなら、谷中とかに行って、手焼きせんべい食べて、別の満足感を得るしかないんで。150円のせんべいなら、こんなもんだろうというのは、セブン=イレブンで十分。なんの新奇性もいらないと、みんな思い始めているんじゃないかみたいなことを言って、問題提起してきたんだけれどね。そのほうが、みんな同じだというつながり意識を持てるとも言えるので。

浜崎:おっしゃる通りですね。たしか福田が、「消費は人を孤独にする」って言い方をしていますよね。まぁ、疲れるという言い方もあるかもしれませんが。

三浦:生産を通してしか一体感を味わえないというエッセイね。確か、それは中島岳志もどこかで引用していた。

浜崎:言ってました?

三浦:雑誌の『第三文明』の数年ほど前のお正月号で、何人かの選者が21世紀に勧める10冊みたいなものを10人が選ぶという特集があって、唯一、二人の選者が選んだのが、僕と中島くんで『人間・この劇的なるもの』だったの。

浜崎:へぇ、すごい!

三浦:ただ、僕はやっぱりこれはロスジェネとの違いだなと思ったのは、中島くんは「生産を通してしか一体感を味わえない」というのを、「だからこそ、社会は若者に仕事を創らなきゃいけない」と解釈しているの。あぁ、なるほど、そう読むんだ、と。僕だったら、「こら、フリーター、ちゃんと働け」と考える(笑)。

浜崎:僕も「働け」のほうですよ(笑)。実は、先日、中島さんと対談してきたんですが、そのとき思ったのは、中島さんのほうが僕よりいい人というか、社会のことをちゃんと憂いている人なんですね。で、僕の方はと言えば、今では、「社会的救済なんて碌なものじゃないんだから、憂えたってしょうがない」という感じの、ある意味無責任なところがあって、だから結局、文学、あるいは福田なんでしょうけどね。その意味で言えば、中島さんの、そういう真面目さ、社会に対しての積極的な責任感、どうにかアクションを起こそうというところは、やっぱり僕にはないところですね。

ユーモア

浜崎:僕、福田の話ぶりを聴いたことがないんですよ、実は。

三浦:そうだよね。ああいう落語家、いますよ。そうね。誰に近いかなぁ。やっぱり圓生だろうねぇ。

浜崎:そうですか。まぁ見た目も似ているけど(笑)。

三浦:圓生が死んだ日に、上野のパンダが死んだのね。それで、テレビ番組で、両方一緒に死んだのに、新聞を見るとパンダの記事はこんなにでかくて、圓生はこれしかなくて、一体何事だと怒っていたよ。

浜崎:へぇ。そうか、そうか。

三浦:つまり、彼は庶民の常識をベースに語るから、突然言葉に日常語が出るじゃないですか。会話の言葉というか。「こうしちゃいられない」みたいな感じの言葉とか、気の短い町人的な。そこが面白くて。そのテレビのときも、そういう調子が出ましたね。たとえば、防衛を論じていても、政界のあたふたぶりとかを論じるときでも、「滑ったり転んだり」みたいな、非常に動物的な比喩をする。

浜崎:それは本当にそうですね。ついつい覚えちゃうっていうか、こっちも使いたくなるような、そういう言い方で。

三浦:プッと笑っちゃうみたいな。それは、『人間・この劇的なるもの』の「個性について」もそうですよね。あれはガツンときましたけどね。個性なんて信じちゃいけない。しょせん、個性とは、右手が長いとか、腰の関節が発達しているみたいなことをいうんだ、とね。憎たらしいこと言うな、と思ったけど(笑)。なるほどと思う。

浜崎:そうなんですよね。

三浦:変えられないものというか、引き受けざるを得ないものというか。旗振って変えられるようなものなら、個性じゃないものね。

浜崎:そうなんですよね。ゆとり教育うんぬんの話をよくするときに、いや個性教育だ、個性を伸ばせ、と。でも、そんなところで伸ばされたものって、個性と言えるか、と。徹底的に個性弾圧をしろ、それでも出てくるものが本当の個性なんだというぐらいの感じを、僕は福田に出会う前から持っていたので、それは本当にもう、その通りだという感じでしたね。

三浦:そこはニーチェ的というか、劇作家らしいね。「滑ったり転んだり」も「鼻が曲がっているのが個性だ」とか言うことによって、読者を唖然とさせながら、関節を外したり、締めたりするのが、すごく得意。

浜崎:ですよね。それは余裕やユーモアがないと、たぶんできないですよね。ユーモアって言うと、「おかしみ」みたいなものだと思っていましたけれど、福田を読んで初めて、ユーモアの意味を知らされたんですね。辞書を引いてみろ、書いてあるから、と。で、辞書を見ると「気質」って出てるんですよ。気質って何かっていうと、お前が選べなかったものだ、と。だから、自分が自分を見透すなんてことはできないんだということを引き受けたやつだけが、自分に対する余裕を、つまりユーモアを持てるんだと。

三浦:確かに、おやじと同じ立ち方をしてるのは、ユーモラスですね(笑)。

今後の福田論

三浦:今後は、より多くの人に福田の魅力を知ってもらう著作を書くの? 僕が学生時代に生まれた若い世代の人たちが、まさか福田の本を書くとは想像もしなかったのでね。残念ながら彼は忘れ去られていく人だと思っていたので。せっかくだから、もうちょっと福田を広められたらと思うんですが。

浜崎:実は、2013年に、文藝春秋が、新たに「文春学藝ライブラリー」という文庫シリーズを立ち上げるらしいのですが、まずは、そこから福田のアンソロジーを、たとえば、保守論、文学論、政治論、という感じで出そうという話はあります。

三浦:1冊で?

浜崎:まずは1冊で。できれば、その後、2冊、3冊と出せればと思っていますが、そのアンソロジーと解説は僕がやることになっています。

三浦:そうなの。

浜崎:あと、「保守とは何か」という感じで新書を出そうという話もあるんですが、それは、もちろん文学に寄せた形で、やれることはやりましょうという感じです。それは来年か、再来年かわかりませんが、近いうちには書きたいとは思っています。

三浦:文庫も最近よく出てるしね。

浜崎:そうなんですよね。

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