カルチャースタディーズ 30代インタビュー 第3回
三浦:たとえば、筑摩書房って、どっちかって言ったら、福田の現役時代だったら、対立側だと思うんだけど、筑摩が出したりね。やっぱり隠れファンがいるね。
浜崎:いると思いますね。
三浦:進歩派、左翼派にもいっぱいいたということかな。この本にも柄谷の例が書いてあるけど。
浜崎:実際、学会なんかに顔を出すと、國學院で、僕より下の世代の、24、25歳のくらいの学生が、博士課程で福田をやっている、と。
三浦:へぇ。
浜崎:女子学生ですよ。あと、早稲田で福田の卒論を書いた女性とは今でも、付き合いがありますし、そういえば筑波の院生も、博士論文を福田で出してます。
三浦:へぇ。
浜崎:あと、僕より少し上の川久保剛さんも、ずっと福田を研究してらっしゃる。
三浦:福田恆存をそういう若い人、女性が研究しているというのは、思想的なものよりは、ちゃんと考えるところに惹かれているんじゃないかな。こんなにちゃんと考えている人がいる、みたいなね。ちょっと次元が違うけれども、見田宗介さんが言ってらしたけれど、最近は大学院くらいにならないと、ミルズとかリースマンとかは社会学でも読まないって。初めて大学院に入って読んで驚くと。すごい!社会全体を考えてるって(笑)。うちの先生とは違うって。うちの先生は個別の研究しかしていないからと、そう言って、驚くという。
浜崎:なるほど。でも、そうかもしれない。
三浦:広く考えるとか、ものごとのつながりを考えるとか、根本にある何か、原理をしっかり見つめるとかいうのが、大学でもあんまりないかな。ただ、社会学なんかでも、面白くはなっていますよ。具体的な現実を一緒に考えようって言ってね、それこそ、サンデル教授的にやってくれるから、面白いと思うんだよね。僕らのころは、本でも読むしかなかったから。 落ち着きで思い出したけれど、福田恆存で好きなエッセイが、タイトル忘れたな。現代は忙しいという。
浜崎:あぁ、たぶん、それも「消費ブームを論ず」ですね。
三浦:そうか。そこにこう書いている。現代は忙しい。でも、忙しいという言葉は昔からあったんだから、昔も忙しかったはずだ。じゃあ、どこが違うのかというと、昔は忙しさのなかに落ち着いていられた。今日はこれをやるしかないという忙しさだった。しかし現代はこんなことはしていられないという忙しさだ。これはすばらしく的確な対比だなあと感心した。こういうアフォリズムを言わせると天下一品だね。
浜崎:ほんと、そうですよね。
三浦:それと、僕、浜崎さんの本で一番好きなところは「註」なんだよ(笑)。この註でさ、「附き合ふといふこと」などの、肩の力が抜けたエッセイに福田の本領があるって書いておられるでしょ、これは本当に膝を打ちましたね。平和論とか、ある意味ギスギスした理詰めの文章も魅力なんだけどさ、ちょっとしたエッセイっぽいものにね、ひょうきんさが出て面白い。 僕は、福田恆存に搦め取られていたころに、僕の兄が主婦向けの『マダム』っていう雑誌を編集していたんですよ。だから、毎月実家にありまして、それを読んでいたら、なぜか福田恆存のエッセイが単発で載っていたのね。 それは彼がニューヨークに留学してたときの話で、タイトルは「いつまで膨れ上がるのか」って書いてあるのね。何の話かと思ったら、自炊していて、冷凍ほうれん草を炒めたら、ぼわぁーって膨れて、いつまで膨れ上がるのか、という話なんだけど(笑)、それがすごく滑稽で、この人、いい人なんじゃないかって思って(笑)。
浜崎:そうですよね。ああいうエッセイが拾えなかったのが、もう本当に心残りで。まぁ、ただ、博士論文じゃできないだろう、っていうのはありますけど。
三浦:新書ではぜひ。
浜崎:はい。このたびのアンソロジーには、ぜひそういうのも入れたいですね。
三浦:そいいですねえ。読みたいです。